魅了!マエストロ  合唱との大団円

館長のつぶやき

音楽祭の最後の3公演は、世界的指揮者のチョン・ミョンフンさんが、演奏者を、県民合唱団を、そして観客のみなさんを魅了しました。

 

ミョンフンさんは時には厳しく的確に指摘や指導をされていましたが、一貫して心優しく温かい方という印象を受けました。オーケストラのメンバーは心酔して、マエストロと共有する時間を楽しんでいる様子でした。第九に参加した合唱団も、あっという間に虜になったようでした。

5月15日は、ピアニストでもあるミョンフンさんが、三浦文彰さんのヴァイオリンとユンソンさんのチェロとともに、ブラームスのピアノ三重奏曲で共演。続いてヴィオラの須田祥子さんとコントラバスの池松宏さんも加わって、シューベルトのピアノ五重奏曲「ます」を披露しました。ピアニストとしてのミョンフンさんは、音の美しさや正確さに加えて、時折メンバーと目をあわせながら、楽しんで演奏されていたのが印象的でした。

演奏を振り返ってミョンフンさんは、「五重奏では自分の役割は2割に過ぎず、他のメンバーが8割の力を出していたので、良い演奏だった」と謙遜されていましたが、ミョンフンさんとそのピアノが全体を引っ張っていたのは確かで、メンバーたちも納得・満足の共演だったようです。

 

5月17日は世界的指揮者としての、オーケストラとの共演。まずは三浦文彰さんのヴァイオリンと宮崎国際音楽祭管弦楽団とで、ブラームスのヴァイオリン協奏曲です。今回の音楽祭で三浦さんは初めての音楽監督として、演奏者として、休む間もない日々でしたが、空いた時間を見つけては練習を繰り返されていて、ヴァイオリニストとしての実力を遺憾なく発揮されていました。

後半のブラームスの交響曲第2番では、音楽祭管弦楽団の演奏が観客をうならせました。数日前に集まったばかりとは思えない息のあった演奏で、内外で活躍する実力者ぞろいのメンバーを、チョン・ミョンフンさんの想いと熱が一つにしていました。

 

最終日の5月18日は、ベートーヴェンの「第九」。音楽祭管弦楽団の演奏に、県民による宮崎国際音楽祭合唱団が加わりました。前日に続いてオーケストラの息の合った重厚な演奏が、第1楽章から進んでいきます。観客が息をのんで聴き入る中、よく知る第4楽章へ。

期待が高まりきったところで、4人のプロと、県民合唱団の歌声が響きわたります。オーケストラの演奏とあいまって、大きな歓喜と感激がホールを包み込んだ感じがしました。

合唱団は300人あまりの応募の中から抽選で選ばれた、高校生から80代までの157人。この日のために、3月から、浅井隆仁さんの指導で練習を繰り返してきました。

演奏後観客からは「感動して涙が出た」「第九をフルで初めて聞いたが、オケが素晴らしかった」「プロでない宮崎の合唱があんなに迫力があり美しいとは」などの声があふれていました。

チョン・ミョンフンさんは演奏家だけでなく、合唱のメンバーの心もわしづかみにしたようで、「合唱をやってきて一生忘れない瞬間」「みんなを引っ張り・引き上げる指揮は素晴らしい」などの感想が聞かれました。

音楽祭の期間中に、イタリアのミラノ・スカラ座の音楽監督への就任が明らかになったチョン・ミョンフンさん。世界的な音楽家・指揮者との貴重な共演と感動が、宮崎国際音楽祭のフィナーレを飾ってくれました。

 

30回という節目だった音楽祭。素晴らしい演奏を披露していただいた方々、協力や協賛していただいた方々、そして何より足を運んでいただいたお客様に、感謝申し上げます。私たちは、31回目の音楽祭に向けて準備を進めて参ります。

(写真:K.Miura)

この記事を書いた人

松坂千尋(まつざか ちひろ)
1957年宮崎県延岡市生まれ。小学校から高校まで、宮崎市、日南市、東郷町(現日向市)在住。
2024年6月末から宮崎県立芸術劇場の理事長兼館長。

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