【公演レポート】アートな学び舎2025『あらかるとの十二夜』
8月31日(日)に上演したアートな学び舎2025『あらかるとの十二夜』。
チケットは完売し、イベントホール満員での上演となりました。ご来場いただいた皆さま、誠にありがとうございました!








2016年度にスタートした「アートな学び舎」は、演劇やダンスなどの舞台芸術に興味がある方に向けて、毎年さまざまなワークショップ・講座を実施してきました。台本を読んで実際に演技してみる俳優体験や、親子でからだを使って遊んだり表現することを体験したり、お芝居の台本である戯曲の読み方や演劇の歴史について学んだり、照明や音響、舞台美術、ヘアメイクなどを実際にやってみたり……。多種多様な内容で舞台芸術に親しんでいただこうと事業を展開し、今年で10 年目という大きな節目を迎えました。



10年目ということでどんな内容にしようか、劇場担当者と「アートな学び舎」で全体構成・講師を務めてきた立山ひろみ演劇ディレクターで話し合う中で、たびたび「参加型で県民の皆さんと舞台をつくりたい」という話があがりました。
これまでを振り返ると、毎年さまざまな分野で活躍する豪華な講師陣を迎えて開催してきた数々のワークショップ・講座。もちろん、参加者の皆さんは年齢も背景も異なっていて、1回きりの参加の方もいれば、参加して楽しかったからと次のワークショップや講座に参加してくださる方や、毎年のように参加してくださる方も多くいます。内容も参加者の顔ぶれも毎回異なりますが、皆さん「何かやりたい」「挑戦してみたい」「学びたい」という思いにあふれており、真剣に楽しんでいる様子を見ていつも嬉しくなりました。「“アートな学び舎”に集まってくださる方たちと一緒に舞台をつくれたら」そんな思いを抱くようになりました。




以前、当劇場が「トライアル・シアター」という事業を実施していたのはご存知でしょうか? こちらも2016年度にスタートし、日本の舞台芸術界で活躍するアーティストを宮崎にお呼びし、一般参加の皆さんとともに約1週間という期間で舞台作品をつくりあげるシリーズです。演出家やダンサー、音楽家など第一線で活躍するアーティストを迎えて行ってきましたが、2020年度の実施が最後となっています。
県民の方と一緒に舞台をつくる、という事業がここ数年実施できていないということ、そして「アートな学び舎」が10年目という大きな節目にあること、そしてこれまでを振り返り、今年は参加者の皆さんと作品をつくろう!という企画に舵を切ることとなったのです。

4月下旬からオーディションの参加者を募集し、6月に2日間に分けてオーディションを開催。12名の出演者が決定しました。そして、県内で活躍する俳優の日髙啓介さん、上杉一馬さん、音楽家の坂元陽太さんらを加えた計16名で、シェイクスピア作『十二夜』を“あらかると”的にお送りする『あらかるとの十二夜』づくりが始まりました。

シェイクスピアの『十二夜』を選んだ理由は、県内ではなかなか観る機会のない古典作品を紹介したいということ、そして一般公募で集まった参加者の皆さんと作品をつくるため、なるべく大人数が出て、つくっていて楽しい作品にしたい、という考えがありました。そして、立山さんと相談を重ねて決まったのが、シェイクスピアの名作喜劇『十二夜』でした。

クリスマスから連なるお祝いの最後の日(1月6日)が“十二夜”と呼ばれており、タイトルはそこからきているそうです。中身に直接的な関係はないものの、盛大に祝われるお祝いの最後の日の祝祭的な雰囲気が作品に漂う、とても面白い作品です。『十二夜』はシェイクスピアが書いた最後のロマンティックな喜劇ともいわれ、シェイクスピアはこの後『ハムレット』『リア王』『マクベス』『オセロー』の四大悲劇、『終わりよければ全てよし』『尺には尺を』といった喜劇だけれども悲劇的な側面をあわせもつ作品を世に送り出しています。シェイクスピアの作品群では、ターニングポイント的な位置にある『十二夜』。そのまま上演すると約3時間かかるのではと思える文量で、稽古期間も約2週間と限られていたため、“あらかると”的にお客さまにお楽しみいただこうと、『あらかるとの十二夜』というタイトルでの作品づくりとなりました。


6月のオーディションを終え、7月に2日間(土日の各4時間)、8月16日(土)~30日(土)(土日は7時間、平日は月曜を除いて各3時間)で稽古を行い、約70時間弱の稽古時間で生まれた『あらかるとの十二夜』。
なんと出演者の半数は今回が初舞台。台本の覚え方、声の出し方、台詞をどう発するか、どう動くか、演じる人物の置かれている状況や狙い、感情は……。ひとつひとつ細かく学び、考えながら稽古は重ねられていきました。また、上演台本・演出の立山さんをはじめ参加者同士で、この登場人物がどういう人物なのか、この台詞は何が引き金になって何を目的になぜ発せられるのか、作品が書かれた当時(1601-1602頃)はどういう時代だったか、シェイクスピアは何を意図していたのかなど、それぞれの考えや意見を交換しながら作品理解も深めていきました。




作品のあらすじをご紹介すると、『十二夜』では大きく2つの話がまざりながら描かれており、ひとつは3人の男女が互いに恋する三角関係の模様、もうひとつは大人たちによるいたずらです。
物語は、船が難破し、双子の兄と離ればなれになった妹ヴァイオラは、イリリアという街に流れ着くところからはじまります。

ヴァイオラは男装し、シザーリオという名前で、その街を治めるオーシーノ公爵のもとに仕えることとなります。

オーシーノ公爵には恋心を寄せる女性がおり、その名もオリヴィア伯爵令嬢。しかし、公爵はオリヴィアに冷たくあしらわれ、取り合ってもらえません。なぜなら、オリヴィアは最愛の兄を亡くし、悲しみに沈み喪に服していたからです。

公爵はそれでも諦めず、シザーリオに自分の恋心を伝えてこいと命令します。オリヴィアに会うことができたシザーリオは、公爵の恋心を伝えますが、オリヴィアはシザーリオに恋をしてしまいます。

しかし、シザーリオの正体はヴァイオラであり、ヴァイオラは女性、そして実はヴァイオラは公爵に恋心を抱いています。公爵はオリヴィアを恋し、オリヴィアはシザーリオ(ヴァイオラ)を恋し、ヴァイオラは公爵を恋している。全員片思いの三角関係になってしまいます。

そして、その3人の恋愛模様と同時に進むのが“いたずら”です。オリヴィアの家に泊まる伯父のサー・トービーは、いつもサー・アンドルーや道化たちとお酒を飲んだり騒いだりして過ごしています。

これに対し、執事のマルヴォーリオはいつも小言を言ってくるため、トービーは執事を痛い目にあわせてやりたいと考えます。そこで、オリヴィアの侍女であるマライアの提案で、マライアがオリヴィアの筆跡をまねて、執事への恋文を書き、執事が拾うように仕向けます。これを拾った執事は、お嬢様が自分にぞっこん参っていると勘違いして……。

3人のかみ合わない恋愛模様と、大人たちの“いたずら”が進む中、登場するのがヴァイオラそっくりの双子の兄・セバスチャン。アントーニオという人物に助けられたセバスチャンがイリリアを訪れたことで、物語は急展開を迎えます。

気になる方は、ぜひ原作を読んでみてくださいね。
舞台は3方向をお客さんが囲むような配置になっており、舞台上には「公爵邸」「オリヴィアの邸」「海岸」など、さまざまな場所をモチーフにしたドア枠。そして、お客さんと同じ客席の中に出演者がスタンバイし、出番になったら舞台に出てきて演じるという演出で、より一層近い距離感で作品をお楽しみいただきました。

終演後にはアフタートークを開催。これまで「アートな学び舎」の全体構成・講師を務め、今回『あらかるとの十二夜』で上演台本・演出を務めた立山ひろみ演劇ディレクターをはじめ、出演者の瀧伸一さん(オーシーノ公爵役)、管野春花さん(オリヴィア役)、日髙啓介さん(道化フェステ役)が登壇。立山さんにこれまでの「アートな学び舎」を振り返っていただき、初舞台となった瀧さんと管野さんには、今回の企画に応募した動機や舞台を終えての率直な感想をお聞きし、初舞台の方が半数を占めた出演者陣との作品創作の感想を日髙さんにお話しいただきました。質疑応答も行われ、お客様から多数のご質問やご感想をいただきました。





また、今回出演者全員に、今回の企画に参加した理由や稽古を重ねての感想などを伺い、劇場のFacebookにて紹介しています。もし興味のある方は、チェックしてもらえるとうれしいです。
ご来場いただいた皆さま、関係者の皆さま、誠にありがとうございました!
アートな学び舎2025『あらかるとの十二夜』
上演日時:2025年8月31日(日) 14:00開演
会場:メディキット県民文化センター(宮崎県立芸術劇場) イベントホール
原作:シェイクスピア『十二夜』(松岡和子訳、シェイクスピア全集6、ちくま文庫)
上演台本・演出:立山ひろみ
出演:福島百香、瀧伸一、管野春花、黒木朋子、束野静代、長田のり子、新屋志依、川越彩子、中村大二朗、加藤信司、成合昌子、加藤かぽぽ、上杉一馬、日髙啓介、長田明香里、坂元陽太(音楽)
美術:川田京子(有限会社ユニーク・ブレーン)
照明:橋本洋子(MAST)
音響:興梠史枝(MAST)
舞台:南洸希(MAST)
衣裳:黒木朋子
小道具:加藤かぽぽ
宣伝美術:脇川祐輔(はなうた活版堂)
主催:公益財団法人宮崎県立芸術劇場
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