自称:人形職人

けんげきで働く人

お世話になっております。舞台技術係の井川と申します。
通常は、催事の打合せなどを担当しておりますが、今回は劇場の自主事業用で作成した人形(ぬいぐるみ)のことを書こうとおもいます。



最近製作した物は、3年前に公演された「幻視(げんし)~神の住む町~」で登場した「ウミガメ」です。
その頃はコロナ禍で海外からの物流が思うように動かず、発注した物がいつ届くかわからない状態でした。企画の担当者がお芝居で使用するぬいぐるみを発注することが出来ず困っていて、「ぬいぐるみ作れる人知らない?」とたずねられ、「ん? 作ろうか?」と軽く返事をしたのがきっかけでした。
担当者から渡された20センチほどのウミガメのぬいぐるみ(かめ吉と命名)。
「それが見本ね。全長1m50センチくらいほしいな。人が乗るので頑丈にね。演者が持ち上げて演技するから、あんまり重くは出来ないね。」
次の日から作業開始です。かめ吉を見ながら型紙のラフ画を描き、型紙職人のななめ田さんにそれを託し、彼女が製図して大型印刷機で印刷してくれました。
材料の調達は関係者のご家族が行い、試行錯誤を繰り返し、どうにか本番数日前にリアルなお目々のウミガメが完成しました。(かめ次郎と命名)


公演は5日間あり、演者が入る時間よりも前にかめ次郎の状態チェックを行っていました。
(本番終了して、破れたり・ほつれていないか、座る部分はへたっていないかなどです)
最終日には客席で観覧することもできて、素敵だけど悲しいお話しに引き込まれていたその時です。
(・・・ あ、かめ次郎の目玉がゆれてる!?)
かめ次郎の目玉は、眼球部分と眼球受けの紙皿で作ったのですが、木綿糸で何回か縫い付けているだけだったのです。
(しまった。状態チェックしてなかった!!)
それからはかめ次郎の目玉だけが気になり、クライマックスで主人公が亡くしたお子さんの事を回想するシーンに入った頃・・・
(この、もの悲しいシーンで、かめ次郎の目玉が取れたら・・・それこそホラーだわ・・・)
(・・・もし、目玉が客席にコロコロと転がっていったら・・・どう回収しよう・・・)
へんな汗をかきながら、客席でひとりうろたえていました。
製作者の心配もなんのその、その後何事もなく終演を迎えました。


所詮、「自称:人形職人」は「自称」なのです。まだまだ修行が足りないなと痛感したのでした。

現在は実務の合間に、ステージ上で使用するテーブルクロスを縫ったり、音楽祭フラッグのほつれを直したりと日々励んでおります。こんな私ですが、どうぞよろしくお願いいたします。

この記事を書いた人

井川陽子(いがわ・ようこ)
宮崎生まれ、青森育ち。高校生の時に高鍋高校に編入。その後各地を転々とする。
前職場のサミットホールも大好きでしたが、劇場の魅力に引き込まれ現在に至る。
気がついたら、二十数年経っていました。娘もこんなに大きくなりました。

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