オルガンという楽器

けんげきで働く人

劇場のパイプオルガン(以下、オルガンと書きます。)をご存じでしょうか?
アイザックスターンホールに据えられている高さ10m、幅13mもある大きな楽器です。
平成5年に、劇場の建設に合わせて製作されました。

作ったのは、横須賀市でオルガン工房を営む須藤宏さん。
日本人で初めてドイツの国家資格(オルガン製作マイスター)を取得した、本物の親方です。親方曰く、「日本の受験戦争を知っている者からすれば楽な内容」だったとのことですが、厳しいのは「一生に一度」しか受験が許されない、ちなみに、ドイツでは運転免許も3回までしか受検できないんだとか。

そんな、親方が作った宮崎のオルガンは、国産(日本人製作者によるもの)では国内最大です。オルガンの大きさは持っている音色の数で計りますが、宮崎のオルガンは66の音色。そのためのパイプの本数は4047本になります。

音を出す仕組みは、パイプ(という笛)に風を送って鍵盤でオン/オフするだけですが、4段の手鍵盤+足鍵盤にある200の鍵で風をコントロールする仕掛けは中々大変です。約500年前から変わらないトラッカーと言う薄くて細い木の板が、オルガンの中を縦横斜めに駆け巡っています。

音色の組み合わせを記憶/再現する部分と風を送る送風機以外、ほぼ昔からある天然素材で出来ているオルガンは、毎日の気温や湿度で変化します。特に、梅雨時と冬の乾燥期が苦手で、勝手に音が鳴り出したり、逆に弾いても鳴らなかったり。もちろん調整箇所があちこち設けてあるのですが、毎回、親方を呼ぶわけにもいかないので、私たちが中に入ってゴソゴソとトラッカーの張り具合を調整したりしています。

現代の量産品と違って手作りの木製機械なので、ある程度、素人でも手が出せるので仕方ありません。演奏会前に、どうしても音が合わないパイプを金切鋏でジョキジョキ切ってしまうことなども…。

ちなみに「オルガン(Organ)」という名前は、ギリシア語で道具器官を意味する「オルガノン(οργανον)」という言葉に由来しています。

さて。オルガンは紀元前250年頃のギリシアで発明されたと言われます、西洋で教会の楽器になったのがいつのころなのかは諸説ありますが、13世紀にはヨーロッパ各地の聖堂や修道院に設置されるようになり、楽器も大きくなっていきます。15世紀には現在も使われている機構がほぼ完成。

 ↑ 上図:18世紀のオルガン/オルガニストとカルカント(ふいご職人)

大航海時代を経て、様々な植民地にもオルガンは広まります。戦国時代の日本にもやってきています。また、16世紀に宗教改革を行ったルターは音楽を大変重要に扱い、そのことが、バッハの音楽へとつながっていきます。その後、浮き沈みはありますが、19世紀にはコンサートホールにも設置されるようになりました。

現在、日本には大小1000を超えるオルガンがありますが、やはり、ほとんどは教会関係の施設です。教会にあるオルガンの場合、鑑賞とは別に明確な目的があって演奏されているのですが、これがホールになると難しい…。

オルガンの音楽は、長い歴史の中で膨大な作品が残っていますが、その大半は演奏会のために書かれたのものではありません。作曲家も一般的なのはバッハぐらいでしょうか。オルガンに携わった数多くの音楽家が歴史の中に隠れています。年々、愛好家の減少におびえるクラシック音楽の中でも、さらにマニアックなジャンルです。

「そんなもの誰が聴きたいんだ?」…ごもっともです。

でも、マニアックなものほど一度はまると面白いんです。オルガンには、西洋を中心に世界の光と影が染みついています。一歩足を踏み出してみれば、そこから見える世界には、様々な興味深いものが詰まっています。

皆様も、悠久の時を経てきたオルガンの音色につつまれながら、歴史と文化の隙間を覗いてみませんか?
きっと、恵みと平安が訪れることでしょう。
 

■オルガン・コンサートのお知らせ

 パイプオルガン プロムナード・コンサート vol.173 「オルブラ」
 2022年12月17日(土)開場10:30/開演11:00
 会場:アイザックスターンホール

 

この記事を書いた人

花田昌明(はなだまさあき)
企画広報課勤務。音楽事業(宮崎国際音楽祭など)を担当。劇場で最も長くオルガンにも携っている。

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