音の採集
普段出かけたりすると、「この音ずっと聴いていたいなぁ」という瞬間に出会うことがあり、癖のようにスマホで録音することがあります。思い返してみると、多くの思い出が録音とともにあり、録音行為は宝探しのような遊びだと言えることがわかってきました。
父に買ってもらったギターをきっかけに音楽に興味を持ちはじめ、録音機能付きの音楽プレーヤーやMDコンポ、MTRを使って音を重ねる遊びをしていました。大学で楽曲制作をする友人に囲まれて自分も曲作りをするうちに、他の人が聴いたことのないような音楽を作りたいと思うようになり、当時「発酵」をテーマに作品を創作する先生の研究室に入り、これまで体験したこともないような音の世界に触れることになりました。
一番興味を持ったのは、「振動センサー」を用いた収音方法です。素子の変形が電気信号に変換されるもの(いわゆるピエゾマイク)、加速度の変化を電気信号に変換するもの、いろいろですが、人間には感知できないような微小な振動を電気信号として捉えることができます。この振動センサーと多チャンネル録音の経験を生かして、複数箇所の体内音のリアルタイム再生、観察するパフォーマンスを実施。その後Bill Fontanaというアーティストの作品を参考に、手すり、雨樋、陸橋の柱などの振動しそうな箇所に、聴診器のようにセンサーを取り付け、心地よい音や独特なリズムが隠されていたりすると、一人静かに興奮しながら音に聴き入っていました。
私が携わったプロジェクトとして印象深いのは、博多織の織機を構成する部品にセンサーを取り付け、個々の部品の振動を収音、それをもとに舞台作品化するプロジェクトでした。職人が動かす織機のリズム自体が既に印象的なのですが、それを個別の部品の音に分けて聴くと、それぞれちょっとずつリズムや音色も異なるのです。部品ごとの音を演奏家や踊り手に振り分けることで、見えない織物が舞台上で紡がれるという作品が出来上がり、アーティストの発想に驚かされました。
【「織・曼荼羅」の舞台裏】織機の「ふるえ」の収録風景
https://www.youtube.com/watch?v=QWcecPht-zI
身の回りにある音以外にも、人間が感知しえないような振動がそこかしこにあふれていると想像すると、いつもの風景もワクワクするような景色に見えるような気がします。今年は何か形に残すことを考えつつ、録音にも力を入れられたらいいなと緩く考えることにします。