【公演レポート】『きっとアンティゴネ』

公演にまつわること

3月8日(土)・9日(日)の2日間、高岡地区交流センターで上演した「新 かぼちゃといもがら物語」番外編『きっとアンティゴネ』。

8日(土)は当日券も売り切れ完売、9日(日)も早い段階での前売券完売となり、多くのお客様をお迎えすることができました。ご来場いただいた皆さま、誠にありがとうございました。

2016年度からスタートした、宮崎県立芸術劇場プロデュースの演劇創作事業「新 かぼちゃといもがら物語」。毎年、日本の第一線で活躍されている劇作家の方を宮崎にお招きして、県内を取材していただき、書き下ろしの新作を上演してきました。これまで生まれた作品は、『板子乗降臨』(作:土田英生)、『神舞の庭』(作:長田育恵)、『たのかんさあレンジャー』(作:戌井昭人)、『幻視~神の住む町』(作:シライケイタ)、『火球』(作:桑原裕子)の5作品。新作の上演と、俳優や演出を変えての再演を重ね、シリーズとして第7弾まで行ってきました。

#1『板子乗降臨』
#2『神舞の庭』
#3『たのかんさあレンジャー』
#4『幻視~神の住む町』
#5『神舞の庭』(新演出版)
#6『火球』
#7『神舞の庭』(新演出版/再演)

今年は、当劇場が天井改修工事の関係でホールが使用できないこともあり、“番外編”と銘打ち、出演希望者を広く募って新たな人たちとの出会いから作品を紡ごうと、フルオーディション形式というこれまでにない形での実施となりました。昨年6月末に開催したオーディションには、県外からの参加もあり、総勢22名でのオーディションを開催。その中から、今回出演する10名が選ばれました。

上演作品は、約2500年前から愛され、世界で上演され続けているギリシャ悲劇の名作『アンティゴネ』(作:ソフォクレス)を原作にした『きっとアンティゴネ』。これまで宮崎を舞台にした現代劇を上演してきた本シリーズで、ギリシャ悲劇を選んだ理由について、9日(日)のアフタートークで上演台本・演出の立山ひろみ演劇ディレクターは「いい戯曲というのはすごく普遍的で、その書かれた当時を生きている人たちに通じることがあるけれども、今を生きる私たちにも訴えかけてくるものがある。そして、オーディションで個性豊かな方達とであって、その方々の才能を引き出したいと考えた時、古典はすごく懐が深いので、古典を選んだ」と語りました。

アフタートークの様子:左から林田古都里さん(学芸)、立山ひろみ演劇ディレクター

*当劇場広報誌『Crescendo』に掲載の立山さんインタビュー記事でも詳しくご紹介しています!

今回の『きっとアンティゴネ』は数々の特色がありましたが、まず一番大きいのは宮崎弁でギリシャ悲劇をお送りしたこと。この“かぼいも”シリーズの大きな特徴に、セリフが宮崎弁であることが一つ挙げられますが、今回の番外編でも古代ギリシャ時代のセリフを宮崎弁でお届けしました。そうすることで、今を生きる私たちにぐっと近づけ、お客さんに楽しんでいただける作品に、という思いがあったようです。

2月に始まった約1ヶ月間の稽古。その第1週目は、セリフを宮崎弁に変換していく、という作業から始まりました。このことについて、アフタートークで中野弥生さん(アンティゴネ役)は「ただ変換するのではなく、出演者みんなで原作の物語を読み込んで、何を言っているのか考えて、そしてそれを宮崎弁に変換していく、という作業だったのでとても大変だった。みんな頭から湯気が出そうなくらい1週間ずっとやっていたけれど、あの1週間があったからこそ、作品の深さとか尊さみたいなものをみんなで共有できたのがすごく貴重な時間だったなと思う」と振り返りました。

アフタートークの中野弥生さん(アンティゴネ役)

黒田吉郎さん(クレオン役)は「原作の『アンティゴネ』をはじめて読んだ時、何言っているか分からなかった。これが劇になるんだろうかという不安があった。けれども、実際に自分たちで方言に変換していくと、だんだん身近になってきて、中身が濃くなっていって。そこから、この形につながった」と、宮崎弁にしたことで変わっていった実感を話しました。

アフタートークの黒田吉郎さん(クレオン役)

けれども、方言は同じ県内でも場所や年代などで変わってきます。宮崎出身で東京を拠点に活動されている梢栄さん(イスメネ役)は「方言への変換作業中に、聞いたことはあるけれども、自分で言ったことはない、という言葉もあった。『ちんがらになった』も知らなかったので、黒田さんが閃いた!みたいな感じで言っていたけれど、『え?知らない!』ってなった。その言葉の解説からしてもらったり、すごく新鮮だった」と振り返っていました。

アフタートークの梢栄さん(イスメネ役)
当日プログラムには、セリフで用いられた宮崎弁の解説も紹介。

本作品の舞台美術は、これまでの“かぼいも”シリーズで数々の作品を手掛けていただいた、日本の第一線で活躍されている舞台美術家の土岐研一さんにお願いし、本番会場となった高岡地区交流センターの多目的ホールの特性が活かされた素敵な空間ができあがりました。

ステージ上の幕の間に投影されている映像が気になったという方も多いのではないでしょうか。この映像について、立山さんは「2500年前に書かれたお話だけれど、その時代から戦争はずっと絶え間なく起こっていて、今も戦争が起こっている。私たちが生きている2025年の今も世界中が大変なことになっている。けれども、私たちは生きなきゃいけない。戦争の年表が淡々と投影される中、宮崎弁になったことでかなり身近になった国を統治する人クレオンと自然法に生きる人アンティゴネの対立や、ハイモンが亡くなった時に感じられる虚しさなどがある。これまで人類が起こしてきた戦争が年表で淡々と流れ、その地続きである今、それがどうなっていくのか。そういったことをこの作品で、お客さんと一緒に共有できたらいいなという思いがあった」とその意図を語りました。

ギリシャ悲劇は以前ブログでもご紹介しましたが、1〜3名の俳優とコロスと呼ばれる合唱隊(10数名)で構成されています。俳優らは仮面を付け替えることで、1人複数役こなし、コロスは歌ったり踊ったり、登場人物らと会話をしたり、鑑賞の助けとなるような解説や進行役も担っていたようです。『きっとアンティゴネ』では、コロスは俳優らが緑色やクリーム色のケープを身にまとい、コントラバス奏者の坂元陽太さんの生演奏に合わせて、歌い踊りました。

生演奏の音楽を入れたことについて、立山さんは「ギリシャ悲劇は、ディオニュソス祭(神であるディオニュソスを祝して開催されていた大祭)で上演されていた神事で、神楽に通じるところがあると思っている。コロスの人たちが歌ったり踊ったりしていたそうで、具体的にどういうふうにされていたのかは残っていなくて、こういうことが歌われた、ということしか残っていない。コロスの人が踊ったり、役者が仮面で演じ分けるという表現形式なので、そういうギリシャ悲劇がもともと持っている面白さみたいなものを活かしたかった。そこで歌詞は私が書いて、曲を坂元さんにお願いした。また、出演者に音楽的素養のある方が複数いて、楽器もみんなが持ってきて。大元のギリシャ悲劇を意識していたということ、そしていくら普遍的だといってもお芝居のシーンだけだとお客さんに伝わらないのではと思って、音楽の力をすごく信じていたので、こういう形にした」と話しました。

 

コロスが登場する冒頭のシーンの踊りについては、梢栄さんが稽古のストレッチでやっていた動きから採ったようで、「今回振付家をつけていないので、出演者みんなが普段やっている動作などからつくりたいと考えていて、梢栄さんがウォーミングアップで最初にやってくれた時の動きが、『これは使えそうだ』とメモしていた。動作が体にとっていいことだったから、それも重要なことだなと」と立山さん。

 

そして、今回演出の一つとして取り入れられていた、二人一役のクレオン。黒田さん演じる素朴で頑固で、どこか宮崎にいる人のような雰囲気のクレオンと、河内哲二郎さん演じる独裁的で冷酷で攻撃的なクレオン。クレオンが預言者テイレシアスと会った後に、改心してアンティゴネの救出を決意した時、河内さん演じるクレオンの姿が消えるのはとても印象的でした。

二人一役のクレオンについて、黒田さんは「最初は、正直本音いいますと、セリフがいっぱいあったから、助かるなって」と素直な発言で会場に笑いを起こし、「河内さんはすごく尊敬する人で、雲の上のような方。途中、自分は必要ないのかなという気持ちもあった。けれども、立山さんの演出を聞いて、一生懸命やっていたら、だんだん面白さが芽生えてきて、すごく楽しかった。そして、こうして形になって、素晴らしいものになったから、お客さんが感動してくれたり、ほろりとしてくれたり、笑ったりしてくれることにつながった」と達成感をにじませていました。

 

最後に、アフタートークの終わりに一言を求められた黒田さん、梢栄さん、中野さん。

黒田さんは「劇をする時、自分だったらどうなのか、ということを常にイメージしながら感情をつくったりする。クレオンの自分が、アンティゴネの言うことを聞いてしまったらこれは身内贔屓になる。国民のみんなに示しがつかない。けれども、身内じゃなかったら、どうするだろうか……。そんなことを考えながらクレオンを演じていたので、見てくれたお客さんそれぞれに感じ取ってもらえるものがあれば、と思う。」

梢栄さん「普段東京で、劇26.25団という劇団に所属して、小劇場中心に活動しているんですけれど、今回初めて古典をやった。現在、劇団で昨年上演した『振り向け!』を映像配信しているので、興味のある方はぜひ。今後は、自分の劇団を宮崎に持ってこれたらなという野望がずっとあるので、長い目で見ながら、他の劇団員のスケジュールを確認しつつ、企画書を書いてみたいなと思う」

中野さん「演劇ってなかなか敷居が高いって言われたりするけれど、宮崎で演劇をやっている側からすると、もっと演劇が身近なものになればいいなと思う。映画館に行ったり、家でドラマや番組を観たりする感じで、身近に感じてほしい。宮崎でもこうやって演劇をする人がいて、面白い作品を宮崎でも作っているので、ぜひこれからも宮崎の演劇を観ていただいて、身近に演劇を楽しんでいただきたい」

 

今回、こんな人が演劇をしているんだ、こういうきっかけで演劇をするようになったんだ、と多くの方に知ってもらえたらという思いで、出演者紹介の映像を作成しております。もしよろしければ、お時間のある時にでもご覧いただけますとありがたいです。

◆インタビュー映像の再生リストはこちらから◆

また、『きっとアンティゴネ』の稽古場での創作過程をブログでもご紹介しておりますので、ぜひご覧ください。

1)『きっとアンティゴネ』稽古スタート!
2)古代ギリシャと宮崎弁
3)ハデス、こなす、しょのむ……
4)アンティゴネの父オイディプス
5)稽古2週目がスタート!
6)2人のクレオン
7)ギリシャ悲劇に欠かせないコロス
8)稽古3週目がスタート!
9)『アンティゴネ』について
10)衣裳フィッティング!
11)本番会場での稽古!
12)いよいよ稽古4週目!
13)ヘアメイクリハ!
14)舞台美術と照明
15)通し稽古in高岡
16)劇場での最後の稽古
17)いよいよ小屋入り!
18)あす・あさって本番!

ご来場いただいた皆さま、関係者の皆さま、誠にありがとうございました!

「新 かぼちゃといもがら物語」番外編
『きっとアンティゴネ』
上演日時:2025年3月8日(土)18:00〜、9日(日)14:00〜
会場:高岡地区交流センター 多目的ホール
上演台本・演出:立山ひろみ
原作:ソフォクレス『アンティゴネ』
出演:中野弥生、川添美和、梢栄、松永檀、中島佳江子、黒田吉郎、ウチハジメ、香川直美、上杉一馬、河内哲二郎
音楽:坂元陽太
美術:土岐研一
衣装:長峰麻貴
舞台監督:土屋宏之(ユニークブレーン)
照明:橋本洋子(ユニークブレーン)
音響:関本憲弘(ユニークブレーン)
映像:伊達忍(jumpcut)
宣伝ヘアメイク・ヘアメイク監修:渡司マサキ(couleur M)
衣装製作:久米亜紀子
映像操作:詩織(jumpcut)
方言指導:河内哲二郎
学芸:林田古都里
宣伝美術:クドウタツヒコ(KIMAMA BOOKS)
宣伝写真:いわいあや
協力:ユニット「あんてな」、株式会社ワーサル、劇団パラノワール、劇26.25団、イチロク會、空宙庭園、ミュージカル劇団on the stage、松田未生(舞台TV)、株式会社松田プレゼンツ
企画制作:公益財団法人宮崎県立芸術劇場

この記事を書いた人

Tatsuro Aoyagi(あおやぎ・たつろう)
辰年、大晦日生まれ、やぎ座、三男、2児の父です。東京生まれ東京育ちで、紆余曲折あり宮崎生活7年目。東京生まれ東京育ちと言うと、信じてもらえません。

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